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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(し)105号 決定

主文

本件抗告を棄却する

理由

本件抗告申立の適否について判断するに、原決定は申立人に対する公務員職権濫用被疑事件を東京地方裁判所の審判に付する決定であるところ、刑訴法二六六条二号の決定については、審判に付された被告事件の訴訟手続において、その瑕疵を主張することができるものと解するのが相当であるから、原決定は同法四三三条にいう「この法律により不服を申し立てることがきない決定」にあたらず、本件抗告の申立は不適当である。したがつて、本件抗告の趣意に対して判断するまでもなく、本件抗告は棄却を免れない。

よつて、同法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(団藤重光 岸上康夫 藤崎萬里)

〔特別抗告申立〕

一、当事者適格(被疑者の申立権)

(1) いわゆる付審判に関する決定は、その実質的機能において検察官の通常の起訴(不起訴)処分と類似する。

しかし、右決定は、(イ)一旦、被疑者について不起訴とされた事案に関し、(ロ)告発、告訴人らの申立にもとづき、(ハ)裁判所がその手続を主宰する当事者となり、(ハ)事案の解明を通常の捜査とは異なる裁判所の証拠調べという方法に依り、(ニ)その最終処分についても決定という裁判でこれを行い、(ホ)いわゆる申立を却下しあるいは棄却する決定に対しては申立人に抗告権の行使を許すなど、その前提手続や最終処分の法律的性格は、検察官が行う通常の起訴(不起訴)処分とは明らかに異なる。

(2) したがつて、被疑者(被告人)は、いわゆる付審判の処分が決定という裁判で行われた以上、その付審判事件の審理手続ないし付審判決定の内容について、その瑕疵、不服を主張し、上級裁判所の救済を求め得ることは当然であり、現に有力学説(小野清一郎他ポケツト注釈全書刑事訴訟法五二六頁、平場他注解刑事訴訟法中巻三四六頁)も特別抗告を認める点、同旨であり(刑訴法四二七条、四三三条参照)、また付審判事件の審理の公正を確保するため、被疑者に担当裁判官に対する忌避申立権を認めた判例(最判昭和四四年九月一一日集二三巻九号一一一〇頁)の趣旨も、これを合理的に推及する限り、審理結果(決定自体)の公正についてその確保の手段を排除するものでないことは明らかである。むしろ抗告審において付審判の決定がなされた場合においては、少くとも被疑者本人については特別抗告権を認めてこそ、右判例の立場とより理論的に整合し得るものと解される。

(3) また、刑事訴訟の追行について、「最終的に有罪判決に達し得る嫌疑の存在」を要件と解する立場によると否とにかかわらず、憲法、判例に違反し、法令の解釈を誤り、かつ重大な事実を誤認した付審判決定により刑事手続にさらされる被疑者が将来にわたつて蒙る地位・名誉その他社会生活上の不利益や、個人的な経済上の負担は苛酷・多大である以上、被疑者としては、東京地裁における本来の公判の開始を待たず、付審判手続そのものの中で、これについて取消を求める利益を有するものである。

〈二、以下略〉

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